柔術着は、なぜ破れるのか|負荷が集中する構造と繊維の違い

柔術着は、なぜ破れるのか|負荷が集中する構造と繊維の違い

縫製・負荷が集中する構造、そして繊維の限界

 

柔術をやっていれば、

一度は同じような光景を見たことがあるはずです。

 

柔術着が破れるとき、その場所はほぼ決まっています。

 

パンツの股部分。

膝パッチの縁。

上着の襟。

背中の縫製ライン。

 

生地の中央が突然裂けることは少なく、

多くの場合、糸が通っている部分から損傷が始まります。

 

そこで、こんな疑問が浮かびます。

 

柔術着は、生地が原因で破れるのでしょうか。

それとも、縫製そのものが問題なのでしょうか。

 

 

縫製は構造的に弱点である

 

縫製部分は、構造上どうしても負荷が集中する場所です。

動き、摩擦、繰り返される洗濯によるストレスは、

生地全体ではなく、細い縫い目の線上に集まります。

 

時間が経つにつれて、

糸は生地よりも早く摩耗していきます。

 

その意味では、素材に関わらず、

縫製部分が最も早く負荷を受けるのは避けられません。

 

しかし、縫製が壊れる場面をよく見ると、

糸だけが突然切れるケースはそれほど多くありません。

多くの場合、糸の周囲にある生地の方が先に広がり始めます。

 

 

縫い目の周囲で起きていること

 

縫製部分が傷み始めるとき、

糸自体は比較的無事なまま残っていることがあります。

代わりに、針穴の周囲の生地が徐々に分離していきます。

 

ここで関係してくるのが、繊維構造の違いです。

 

コットン(綿)の繊維は、比較的短い繊維で構成されています。

摩擦や引っ張りが繰り返されると、

短い繊維は緩み、少しずつ分離していきます。

 

特に縫製部分では、

針が通ることで繊維がすでに切断・移動しています。

そのため、小さな動きが何度も加わることで、

針穴の周囲が徐々に広がっていきます。

 

この変化は一度に起こるものではありません。

稽古を重ねる中で、

構造的な疲労が少しずつ蓄積していきます。

 

 

濡れた状態での強度低下

 

もう一つの要因は、湿った状態での強度の変化です。

 

コットン繊維は水分を含むと膨張し、

乾燥する過程で再び収縮します。

このサイクルを繰り返すことで、

繊維表面は荒れ、強度は徐々に低下していきます。

 

柔術の稽古中、道着は汗によって長時間湿った状態になります。

汗で濡れたままの稽古と、頻繁な洗濯は、

縫製部分周辺の生地に疲労を早く蓄積させます。

 

その結果、股、膝、襟といった動きの多い部位から、

縫製を支える生地の力が徐々に失われていきます。

 

これは欠陥ではありません。

繊維そのものが持つ特性です。

 

 

ヘンプが構造をどう変えるか

 

ヘンプ繊維は、コットンよりも繊維が長く、

繊維自体の引張強度も高い素材です。

 

同じ面積の生地の中で、

繊維同士がより長く絡み合い、

摩擦や繰り返しの負荷に対して

形状を維持する時間が長くなります。

 

この違いは、縫製部分の周囲で現れます。

 

針穴の周辺が広がりにくく、

周囲の繊維がより長く結束力を保ちます。

繰り返しの摩擦でも繊維の離脱が遅く、

濡れた状態でも強度低下が比較的少ない。

 

結果として、ヘンプは縫製を代替するわけではありませんが、

縫製構造が安定して保たれる時間を長くします。

 

 

「破れない柔術着」と言わない理由

 

「絶対に破れない柔術着」は存在しません。

どんな柔術着でも、破れる可能性はあります。

縫製がある以上、損傷の可能性は常に残ります。

 

ただし、違いははっきりしています。

 

破れが始まるまでの時間。

構造が崩れていくまでの過程。

 

繊維の長さ。

繊維自体の強度。

濡れた状態での強度保持率。

 

これらの違いが、

繰り返される稽古の中で

柔術着の寿命を左右します。

 

 

長く着るということ

 

柔術着を長く着るということは、

丁寧に扱うことではありません。

 

繰り返し着て、

繰り返し洗い、

それでも、構造が簡単に崩れないものを選ぶことです。

 

 

 


本記事では、柔術着が股・膝・襟・縫製部分で破れやすい理由と、
コットンとヘンプの繊維構造の違いが
耐久性にどのような影響を与えるかを解説しています。
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